胃がんを最小負担で治す最新治療法と末期からの新薬治療効果

日本人のがん死因の第一位は、胃がんだ。

胃がんの予防、手術、抗がん剤はそれぞれ日進月歩で進化を遂げている。 胃がん予防は格段に進歩し、胃がん手術も切除範囲が最小化された。 さらには手術不可能な末期の胃がんでさえも、奇跡的な回復の見込みがある抗が ん剤新薬も開発されている。

胃がんは、予防し、治せるがんになりつつある。

胃がんは簡単に予防できる

胃がん は、 飲酒、喫煙、塩分の多い食事に加え、 "ピロリ菌"の感染が主な発病原因と指摘されている。

胃の中に細菌であるピロリ菌が長年感染していると胃の粘膜に炎症が起き、 炎症部分にがん細胞が増殖することで胃がんを発症してしまう。 しかし、ピロリ菌治療は簡単で、経口薬を飲むだけで簡単に除去治療し、 胃がんリスクを激減できるのだ。

ポイントはピロリ菌感染の検査を受け、薬を飲むか否かで、 胃がんリスクは大きく差が出る。

最新胃がん手術では胃が大部分残る

発見された胃がんが早期なら「レックス」という最新手術方法が適用できる。 最新の胃がん手術法「レックス」なら、 胃がん患部の周辺切除だけで済み、胃の大部分が残せる。

約2cm程度の早期胃がんに対しても、 従来の胃がん手術では外側からでは胃がんが見えないため、 胃の大半である2/3を切除していた。 しかし、「レックス」による手術ならば、 胃の切除範囲はわずか4cm径の部分的な切除で済むのだ。

最新手術法「レックス」による最新胃がん手術でも、 患者のお腹へ腹腔鏡や鉗子を挿入するのは従来の腹腔鏡手術と同じ光景。 違うのは、その後に患者の口から内視鏡(胃カメラ)を挿入し、 胃の内側から胃がん患部を目視しながら、切除範囲をマーキングする点が新手法 の目玉だ。

内視鏡なら胃の内部から胃がん病変部を目視できるので、 早期胃がんが転移再発しないされる病変部から周辺7mmの範囲を正確にトレース することは、容易なのだ。 そして、このがん患部周囲7mmに電気メスで切除範囲としての「印」を付ける。 この範囲を外側の鉗子が「印」どおりに切除するのだ。 つまり最新胃がん手術「レックス」とは、 胃の内外にそれぞれ内視鏡と腹腔鏡を併用することで、 胃がん病変部の位置を正確に把握し、切除範囲を最小化する手術法だと言える。

従来の胃がん手術では、がんの取り残しを恐れるあまりに、 胃の大部分(3分の2)が切除されるのが"通常"治療だった。 胃の外側からの切除では胃がん患部が見えないために、 「取り敢えず」の大切除だったと言える。

しかし、新手術法「レックス」では、必要最小限の範囲しか胃を切除しない。

胃の切除範囲が小さいことは、患者の免疫力の落ちる手術後の体力回復が早いこ とにで、再発転移の確率を著しく下げられる。 また、術後の生活の質(QOL)も殆ど落とさずに維持できる大きな利点がある。 QOLで最も顕著な差は、胃がん手術後でも胃がん手術前と同じ食事ができること だ。食は「生の喜び」そのものであることを考えると、このメリットは非常に大 きい。

「レックス」による胃がん手術の体験談例では、 胃がん手術後の約1ヵ月後から普通の食事を開始できた患者もいる。 胃の半分以上を切除する従来法の胃がん手術では、 手術後半年間は通常の食事さえ不可能なのとは格段の差がある。

「レックス」による最新胃がん手術の適用例は、 2011年から開始されたばかりなので、まだ3例だ。 しかし、既存機器と既存技術の組み合わせで実施できるなど、 非常に優れた視点での応用治療なので、今後は標準化される可能性が高いだろう。

最新胃がん治療はオーダーメード抗がん剤

手術が不可能とされる進行性胃がん、末期がん胃がんに対しては、 化学療法として抗がん剤治療が選択される。 従来の胃がん治療に用いられてきた抗がん剤は、 「シスプラチン」と「TS-1(ティーエスワン)」である。 しかし、これらの抗がん剤が末期胃がん患者へ効果をもたらすのは。 わずか2割程度。そしてその効能は一時的ながん縮小に留まる。 他方では、副作用(吐き気,虚脱感,脱毛etc)はかなりの確率で全員を苦しめ、 激しい場合には逆に寿命を縮めることされ指摘される。

近年のがん治療の潮流である「オーダーメード治療」とは、 文字通り「がん患者個々人の体質に合わせた治療法」である。 具体的には、 がんの性質、患者の体質に応じて、最適な抗がん剤を使い分ける治療法だ。 これに用いられる抗がん剤新薬は、それぞれに効果の出る患者の性質が前もって 判っており、逆には効果の無い患者が投与前から予め判るという性質がある。 つまり、抗がん剤を投与前に検査することで効果予測が可能で、 効果のある患者だけの投与し、副作用だけが負担になる効果の無い患者には、前 もって投与が回避されるのだ。

今胃がんで着目されているオーダーメード抗がん剤新薬は、「ハーセプチン」。 胃がん患者の中には、 「HER2タンパク」(ハーツーたんぱく)と呼ばれるがん細胞の増殖に関わるたんぱ く質を"多く"持つがん患者が存在する。 このHER2タンパクはがん細胞の増殖物質と接触することで、 がん細胞へ増殖信号を送りがんの増殖を推進する物質なのだ。

このHER2タンパクの働きを阻害する薬効によって がん増殖機能を停止してしまうのが、 胃がんオーダーメード抗がん剤「ハーセプチン」なのだ。

このハーセプチンの抗がん剤効果予測は、 患者の胃がんの一部をサンプル摂取し、免疫染色装置で4時間染色することで、 確認される。 オーダーメード治療の目印である細胞内物質HER2タンパクが可視化されるので、 HER2タンパクが多ければハーセプチンの効果が高いことが見込め、 HER2タンパクが少なければハーセプチンの効果は期待できないことが前もって判 るのだ。

つまり「ハーセプチン」は、 HER2タンパクを多く持つ胃がん患者に対して、 非常に高い効果がある抗がん剤なのだ。 それゆえに「ハーセプチン」が 初の胃がんオーダーメード治療薬と呼ばれる。

「ハーセプチン」の胃がん治療体験談では、 発見時に5cm径で骨転移まで確認された進行胃がん=末期がんの女性(40代)。 末期がんでもあきらめずに「ハーセプチン」で治療開始すると、 7ヶ月後には胃がんが劇的に縮小した例が報告されている。

「ハーセプチン」での治療に適している、 つまりHER2タンパクが多い胃がん患者は約2割程度とされている。 その数の多寡はさておき、適応できた場合には、劇的なまでに高い治療効果が得 られる。

現在はまだオーダーメード医療で利用できる薬剤は少ないが、 がんの発病、増殖、転移、再発に関わる基礎研究か続々と原因物質が特定されて いることから、特定物資を対象としたオーダーメード抗がん剤は続々と開発され るだろう。 今後は、患者1人1人のがんと体質を見極めてから使うタイプの抗がん剤が常識と なる日は近い。少なくとも、効かない抗がん剤の副作用だけに苦しむがん患者は 減少するだろう。

常識的に「がんに効く抗がん剤だけが利用される」治療が早く実現して欲しいも のだ。