末期がんの患者を元気にする新治療法

末期のがん患者を苦しめる腹水の負担を大幅に軽減し、治療再開の可能性すらある新治療法が確立されている。 顕著な回復をした治療例として下記が紹介されている。

  • 寝たきりの末期すい臓がん(60代男性)が腹水20リットルを濾過注入して退院し、3ヵ月後には仕事復帰
  • 末期乳がん(女性)が腹水8.7リットルを濾過注入し、4日後にゴルフを18ホールラウンド
  • 余命1週間宣告の卵巣がん(70代女性)が腹水治療後に抗がん剤治療を再開して1年以上も元気に存命

がんが末期に進んだ腹水はお腹が大きく膨らむ程に大量である。その重さと体積が胃腸を圧迫するために、患者は苦しく痛みを感じてしまう。酷い場合には食事も辛く、呼吸さえも苦しい。腹水はがん患者の体力だけでなく、生の質(QOL)を酷く劣化させることが問題だった。しかし、従来の治療法では、がん患者に溜まった腹水は、ただ抜いて捨てるだけだった。腹水を抜くことで一時的にお腹は軽くなるが、腹水に含まれている体に必要なタンパク質も体外に出てしまうため、すぐに患者は弱りはじめてしまう。そして、また腹水が溜まり抜いて体力低下、という最後の悪循環へと進むしかなくなってしまうのだ。がん治療の経験ある医師ならば、がんの腹水が溜まり抜くと死期を早めるということは解っていても、苦しむ患者に対しては腹水を抜くより他に手立てが無かったのだ。

しかし、新しい腹水治療法では、がん患者を苦痛から解放するだけでなく、体力も回復させる。抜いた腹水を濾過して腹水に含まれる栄養素だけを静脈を通して患者の体内へ戻すからだ。この新しい治療法とは「KM-CART」と呼ばれ、特殊な濾過装置を用いてがん患者から抜いた腹水中から身体に必要な成分だけを分離濃縮して、再び体内に戻す治療法なのだ。

医師にとって腹水が栄養に満ちていることは既知であった。肝炎の患者に対しては、もされている「腹水ろ過濃縮再静脈注法(CART) (1981年に保険適用)」という治療法がある。しかし、旧来のCART治療機器では肝硬変の腹水には有効だが、がん患者には適用が不可能だったのだ。その原因は、肝硬変の腹水には含まれないがん細胞の存在だった。実際にはがんの腹水を濾過するとすぐにろ過膜が目詰まりし、腹水に圧力が掛かるために炎症物質が放出されてしまうため、腹水の濃縮液を体内に戻すと高熱が出てしまうのだった。

そこで、新しい治療法である「KM-CART」では、膜の構造やろ過方法、ろ過膜の洗浄法に大幅な改良を加えたことで、がん細胞への圧力を低いままに濾過できるようになった。体内に戻す腹水の栄養成分にも炎症物質が出ないことから高熱リスクは減少したのだ。さらに、濾過治療時間が短縮できたことで患者の負担とリスクも低減された。

腹水の圧迫から解放されたがん患者の臓器は急激に血流が回復することから、消化排泄機能が戻ってくる。血色がよくなり、食欲が沸いてくるのだ。気力、体力が甦れば、再度に抗がん剤治療を開始できる可能性が出てくる。

余命を告知された末期がん患者でも、溜まった腹水でお腹が肥大化して弱ってしまったがん患者でも、KM-CARTで腹水を抜いて濾過循環させることで、再び口から好物を食べ、ぐっすり眠れるようになる。末期がん患者の劇的な良化は、患者自身だけでなく見守る家族の心情にも計り知れない恩恵がある。終末ケアと考えてさえも意義は非常に大きい。

末期がんと診断されても安易に腹水を抜くのではなく、腹水の重要性とそれを重んじる新治療法があることを肝に銘じてもらいたい。