末期でもすい臓がんを手術できる新治療法

手術が不可能とされていた末期のすい臓がん患者が、手術を受けられる新しい治療法の研究が進んでいる。

末期すい臓がんを手術するには、広がってしまったがんが周囲の血管や神経を覆ってしまい剥離が困難であるからだ。この血管の周囲のがんを手術の前に体外から焼き切ってしまうのが新治療法の「ハイフ治療」だ。

超音波を収束して焼く

「ハイフ治療」とは、正式名称High Intensity Focused Ultrasound 略してHIFU(ハイフ)と呼ばれる超音波発生装置を利用してがん細胞を焼く治療法だ。日本名では、強力収束超音波焼灼療法(きょうりょくしゅうそくちょうおんぱしょうしゃくりょうほう)とも呼ばれる。

超音波はそのままでは熱を発生しないが、照射を一点に収束させると焦点だけが高温になる。虫眼鏡と原理はほぼ同じだ。 焦点温度は、60~90℃程度とがん細胞が破壊されに十分である一方、焦点部から5mm離れると50℃程度と正常細胞には影響が無い。放射線治療と違って超音波には被爆の副作用も皆無だ。切開が無いので血一滴さえ流れず、麻酔も不要だ。 ほぼ無痛で、皮膚にチリチリとした火傷の様な感覚があるだけ、実際には皮膚も焼けない。

末期すい臓がんとハイフ治療

ハイフ治療によって、末期とされたすい臓がんを超音波照射で体外から焼き切って小さくすることで、末期すい臓がんが手術可能になるのだ。実際に、手術不可能で末期がんとされていたすい臓がん患者が、手術を受け、回復した事例も出始めている。

ハイフ治療は前立腺がん、肝臓がんへの治療実績は以前から存在し、それぞれ効果/実績ともに高かった。ここに、腎臓がん、すい臓がん治療への応用が近年に開始された新治療法なのだ。

ハイフ治療の問題点

ハイフ治療の問題点は、治療できる範囲が「点」のように狭いこと、そのために治療時間が掛かってしまうことだ。 1回の超音波照射で焼けるがん細胞の大きさは米粒程度の大きさであり、1秒間隔で300回の照射を繰り返しても、所要時間は、直径3cmのがん患部に対して約3時間が必要となる。そのため、標準的なハイフ治療では、 1日1時間の治療を3~5日間に分けて実施されるのだ。

ハイフ治療の改良

ハイフ治療の効率と効果を上げる研究も進みつつある。超音波検査の造影剤として使われている2~3ミクロンの気泡=マイクロバブルをハイフ治療時に併用することで、治療効果が増大することが判ったのだ。マイクロバブルをがん患部へ注入し、超音波を当てると従来よりも強力かつ広範囲にがん細胞を焼却できるのだ。ハイフ治療は治療時間が短縮され、効果は高まる改良が進められている。 ハイフ治療の費用は約20万円。

末期すい臓がんが、末期でなくなる新治療法として期待は高まっている。